村を見守る先祖の墓

甕 棺
「J」字文様と「波頭」文様

資料名 甕棺 かめかん
見つかった遺跡函館市浜町 戸井貝塚
大きさ高さ67㌢×最大径43㌢×口径20㌢―底径18.5㌢
時期函館市浜町 戸井貝塚

市立函館博物館蔵 函館市指定有形文化財

村を見守る先祖の墓

 甕棺とは人の遺体、あるいはその一部を入れ、棺とした土器をさします。縄文時代中期末葉から後期にかけて、土器を使った埋葬方法が東北北半(青森県)を中心とした地域から津軽海峡北岸域にも広がりました。縄文時代、モノだけが移動することはさほど珍しいことではありませんが、思想や行為をともなう習慣が広がるためには、ヒトの移動が欠かせません。甕棺葬を行うには、最低でも一次埋葬、二次埋葬と言う手続きがあります。そうなると、儀式を把握し、行為を進めることができる人や時々に使うモノを揃える必要があり、様々な人の協力が必要となります。

 この土器は戸井貝塚の西端、標高5.8㍍の小高くなった斜度30°の急斜面に一基だけ、正立して据えられ、埋められていました。現在の戸井バイパス、宮川神社の東側斜面にあたります。この土器は中期末か後期の最初頭に作られた特徴を持った土器です。この土器にはどんな意味があったのでしょうか。

 考古学で墓という定義をする際には、まず遺骨が存在したことがあげられます。ついで、規模や構造、出土品など遺骨が発見されている墓に準ずる内容の状況証拠が求められます。この遺構からは残念ながら直接遺骨は見つかりませんでした。しかし、急な斜面に単独で埋納されていたという遺構の位置や正立してあらかじめ掘られていた土坑に置かれていたという安置方法、使われた土器の形状や大きさなどの特殊性から見て甕棺を用いた埋葬行為がここであったと判断することができます。

 特筆できることは、後期初頭の村を見守る特別な場所だったということ。村に先駆けてあるいは村をつくるきっかけとして置かれたという意味合いがあげられます。また、このような形での埋葬が他にはないことから、被葬者は破格の存在として村人が特別な埋葬を行ったと受け取ることが出来ます。

 甕棺への埋葬方法は、まず遺体を仮埋葬(かりまいそう)します。海峡の南岸では、(いた)(いし)で組んだ石棺(せきかん)()などが使われています。これを一次埋葬と言います。そして肉が落ちて骨だけになったら、その骨を取り出し、洗うなどしてから骨だけを土器のなかに納め、改めて埋葬します。これを二次埋葬といいます。一例をご紹介しますと、青森県五戸町の薬師前(やくしまえ)という遺跡からは、甕棺に埋葬された家族と見られる人骨が発見されています。薬師前遺跡の例では、土器の中にまず頭蓋骨を入れ、それを囲むように手足の骨を土器のなかに立て、最後に肋骨や脊椎骨などの細かな骨を納めて、別な土器で蓋がされていました。二度の埋葬行為が行われるこの「再葬(さいそう)(かめ)(かん)()」の習慣は本州北半と津軽海峡を囲む地域でしか見ることができません。

 オレンジ色で、とても大きな土器です。形は、口縁が小さく、最大径が胴の下部にある壷形で、小さな底部がつきます。口縁は、装飾のない平坦で単純な作りです。別な土器で蓋をする慣わしだったからでしょうか。器面には隣接する文化圏から伝わった大胆な「波頭」あるいは「J字」形の入組文が描かれます。区画された文様の中には縄文がつけられていました。完成品を持ち込んだのでしょうか、ヒトを呼んで焼かせたのでしょうか。この時期、この大きさで、この姿の土器は海峡の南岸の技術で作られたと考えた方が妥当でしょう。

 墓や埋葬方法はとても保守的で、かつ個性的です。墓の中には、時々、副葬品とよばれる埋納品が入れられることもあります。加えて朱がまかれたり、花粉が発見されたりすることもあります(献花があったんですね)。つまり、埋葬の際には大小に関わらず、セレモニーを伴っていたということです。突然死でもない限り、自分が葬られる際には自分が納得できる埋葬方法を希望し周囲に伝えておくものでしょう。それは埋葬行為がすべて自分以外の人によって執り行われることによるからです。甕棺葬が行われたということは、この地の集団が二代、あるいは数代かけて習慣を受け入れてこの地に根付いたことを意味します。このことからも、縄文人は偶然や単にどこかの地域からの流行を受けて茫漠と変わって来たのではなく、生き残りをかけて積極的につながりを求めながら変容して行った人々の文化だと筆者は考えています。

 先述のとおり、残念ながら土器の内部からは骨は発見されてはいません。あるいは生前に段取りをしつらえ、子どもに埋葬方法を伝えていたのかもしれません。後期のこのムラを始めたヒトは、海峡の南側にふるさとを持ったリーダーだったのでしょう。

(日本考古学協会会員 佐藤智雄)  

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