資料名 | 土偶 |
見つかった遺跡 | 函館市 桔梗町サイベ沢遺跡 (北海道指定史跡) |
大きさ | 長さ8.6㌢ |
時代 | 縄文時代 中期(約5000年前) |
市立函館博物館蔵 北海道指定有形文化財
縄文人のイメージ
サイベ沢遺跡は、昭和24年市立函館博物館が主体となって発掘調査を実施しています。函館にゆかりの深い北海道大学(当時)の児玉作左衛門教授、大場利夫助手、博物館の武家収太館長を中心に函館市民や市内・道内から学生ボランティアをつのり、のべ54日間にわたり調査が実施されました。当時、学術調査された遺跡としては、内容・規模・成果などからモヨロ貝塚、登呂遺跡の調査と並ぶ発掘調査と称されてれ、調査のようすは全国の映画館などでフィルムニュースとして上映されました。
この調査によって、破片を含む8点の土偶が発見されています。三内丸山遺跡のように2,000点もの土偶が発見された遺跡には比べられるものではありませんが、土偶の少ない北海道にあって、しかも中期の遺跡から発見されたものとしては、とても多い数といえるでしょう。見つかった土偶はすべて板状のつくりで、ムラがだんだん大きくなってくる縄文中期に作られた個性的な土偶です。
この土偶は長さ8.6㌢、板状で、胴はやや逆三角形、下半身は腰の部分から内側に直角に折れ曲がる屈曲土偶といわれるものです。ちょっと見には両腕を広げ、両足を投げ出していると言ったら良いでしょうか。ちなみにお尻を下にしても座高が高く、安定して座ることはありません。少し大きめですが、腕と同じような形に頭が作り出され、全体はまるで十字架のようです。
土偶は身体の割には大きな顔が表現され、胸の直上に口があります。両目は円形の道具で丸くキリリとあけられ、大きな目が正面を見ています。両眉と鼻は1本につながった線で表現され、鼻には鼻腔があけられます。口をあけ、上唇がややめくれるアヒル口。子供の顔でしょうか。胸には乳の表現はあるのですが、上から見るとまるで、床に寝かされてオシメを替えているときの「赤ん坊」の様です。胸まで広がった顔はとても大きく、割合から見ると三頭身ぐらい。文字にすると珍妙ですが、あまり違和感が感じられないのはやはり全体が子供の要素を持っているからだと思われます。
胴部には壊れてからくっつけて元に戻した跡(接合痕)が割れ線で残っていますが、壊れて捨てられたものではなくおそらく取り上げの際についた新しい欠けでしょう。土偶の表面には、研磨によるつやが見られます。背面にも同様に研磨によるつやが見られますが、特に表現したものはありません。これもこの時期の土偶の特徴ですね。突き出された右足には指先が表現されています。左の足は欠けてありませんが、同じく指先があったのでしょう。お包みに入った赤ちゃんは縄文人も現代人もこのような感じなのでしょうね。
現代人が望む写実性を縄文人に求めても仕方ないのですが、この表現だからこそ縄文人のイメージする土偶(ヒトガタ)と納得させられるのかも知れません。素朴な印象のある表現は縄文人の優しさを見るようです。
(日本考古学協会会員 佐藤智雄)
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