文様は時代の象徴

市立函館博物館蔵

文様は時代の象徴

　サイベ沢遺跡からは、昭和24年の発掘調査によって破片を含む8点の土偶が発見されています。
今日は2点目の土偶をご紹介します。土偶はよく女性の象徴と紹介されていますが、中性的な特徴を持っているものも沢山あります。縄文人に固いことは似合いません。この土偶もその例にあたるのではないかと考えています。土偶が精霊や神秘の象徴ならばジェンダーレス。祭りに参加する子供らは男女の分けなくみんな神の使いとして扱われています。

　この土偶も板状です。長さ6.5㌢、幅6.9㌢。下方が欠けているので正確な表現とは言えませんが、先に紹介したものより少し小ぶりで残された部分は縦と横がほぼ同じ、一見バランスの取れた印象があります。

　この土偶は手のひらの大きさです。この土偶を作ろうとするなら、初めはコシのある土を手に取って板状に、胴は逆三角に押し広げて全体の形を作ります。しんこ団子を作る時の要領ですね。両腕と頭部は半円状で、3箇所ともほぼ同じ大きさに作られていて、同じリズムを感じます。欠けた下方も同じような形かも知れません。体の割には頭部の顔が大きく表現され、顔一杯に目鼻が表されて江戸時代の大首絵のようです。胴は頭部よりもごくわずかですが1段厚く作られているために、正面から見ると立体感があるように感じられます。　

　両眉と鼻は1本の粘土紐をねじってつくられ、鼻には二つの鼻腔があけられています。両目は先に小さな粘土粒をはりつけてから目があけられています。下から上に目を入れているので、見る角度によりますが、瞼と涙袋のように見えます。顔の表現技法は、先述のサイベ沢遺跡の土偶と同様で、もしかしたら製作者は一緒なのかも知れません。印象的なのは目より少し大きな口です。唇がうすく盛り上がっていることから、やはり口の場所にもととなる粘土を小さく貼り付けてから口をあけているのではないかとみています。この時期、胸に顔を持った板状の土偶も見られますが、表現するスペースが狭いという存外こんなことに由来が求められるのかも知れません。

　身体には、広げた両腕の方向に２本１組の縄のヒモが一文字に押し付けられています。また、胸の中央から下部に向かって縄ヒモを押しつけ、逆三角形の身体にそって、やはり縄ヒモを押しつけています。逆三角形の身体が強調されるようです。その上から、粘土の小粒で作った乳を両胸につけています。縄ヒモを合わせて押し付けて文様を残すやり方は、中期の初め円筒上層式土器の特徴です。
縄の文様が付けられるのは、着ているものが繊維で織られたものだからでしょうか。身体の真ん中にも模様が付けられています。衣装を着けているのだとすれば、バスタオルやケープを肩からかけるように左右からあわせられていたのかもしれません。背面には特に表現したものはありませんが、土偶の表面・裏面ともに、研磨によるつやが見られます。身体のどこにもヒモかけした痕跡が見えないことから、竪穴の中に置かれたり、カゴなどで持ち歩いたりした可能性が考えられます。

　中期初頭の土偶は津軽海峡の北側では本当に数が少なく、このサイベ沢遺跡の他には、八雲町栄浜遺跡出土の土偶、余市町フゴッペ洞窟遺跡出土の土偶などですが、最近では函館市豊原4遺跡から中期最初頭に位置づけられる土偶が発見され、出土例が少しずつ増えています。

（日本考古学協会会員　佐藤智雄）